三宅隆文さん。サンマルク東南アジア社長(後編)

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-前編はこちら-

‐30代をどんな時代だと感じていますか?

シンガポールに来て30代がスタートし、ようやく自分の人生の点と点が線でつながった感じです。現在のサンマルクの社長業は正に自分の人生の全ての経験の集大成で、自分のやってきたことの何か一つでも欠けていたらできないだろうと感じています。お金の汚い部分も見てきたからこそ、とにかく今は理念にこだわりたいという思いが強いですね。理念にばかりこだわるから日本人は金儲けができないと思われることもあるけれど、それが実は一番の近道なのです。今は日系企業の良い面を素直に認めることができます。

‐ サンマルクの企業理念について、特に共感された点をお聞かせください。

まずはインセンティブというシステムは意味がないということ。「顧客満足度より従業員の満足度」を重視するような話がもてはやされた時期もありますが、実際の経営において「従業員の満足度は顧客満足度に優先されない」のです。経営者は観念論でしかない天動説に惑わされてはいけない。本来お客様あっての事業であり、従業員がいなくてもお客様が満足してくれれば事業は成り立つのです。従業員のインセンティブを重視するようになってはいけない。働く動機・目的が金ではインセンティブはドラッグと一緒。金の切れ目が縁の切れ目となり財源がなくなれば従業員が働かなくなって終わり。それも目的が金になっていたら当然の結果です。サンマルクの場合、働く目的は「お客様にとって最高のひと時を創造し続けること」で、その手段や結果としての利益だという考え方です。金に目がくらんだ従業員が高い業績を上げる組織というのは、経営者として能無し・何もしていない・経営者責任を果たしていないということであり恥ずかしい等、サンマルクに入って企業経営を学ぶことで自分の感じていたこと全てがクリアになりました。

サンマルクでは全てにおいて経営者重視で「利益というのは従業員の努力で出すものではない、経営者の知恵で出すもの」という考えが基本にあります。経営理念は非常に素晴らしく、本を出せば売れるだろうと思うのですが、社長の片山はメディアに出ないし本も出さない方針で全て断っています。社長曰く「全ての店舗で理想のオペレーションが達成できているわけでは無いのに、それを棚に上げて自分がいかに優れた経営者かという能書きを偉そうに書くほど図太い神経は持ち合わせていない」と。確かに、出版したりTV番組に取り上げられた後で経営が傾いた企業の話は幾つも聞いたことがあります。現状に胡坐をかいたらいけない、ということでしょうね。いくら気を張っていても怠慢による隙があれば緊張感が薄れあっという間に業績は傾くものです。企業経営は倒産と背中合わせだということを忘れてはいけないと思っています。常に倒産への強烈な圧力がかかる一方でそれを上回る成長の原資を確保しながら進んでいかなければならない。何もしなければ、どんなに優れた業態を持っていても絶対に衰退に向かうのです。企業は倒産に向かって進んでいるという考えが基本で、常にそれを1ミリでも超える成長をし続けなければいけない。サンマルク用語では「好材料を仕込みなさい」と言います。 常に3~5年の仕込みをしなさい、5年分仕込めたら優秀な経営者と言えると。それは毎日見直す必要があり、無くなってから仕込むのでは遅いのです。来年分があるのか?と常に意識していなければ絶対に業績はマイナスになります。成長は出店だけではカバーできない。日本はマーケット自体が縮んでいるのだから、出店だけでは限度があることを考慮するべきです。

サンマルクは厳格な規律を持つ会社です。傍から見れば大変なように見えるかもしれないけれど、世界のトップ数%の企業は皆規律を重んじています。日系企業だから規律が厳しいのではなく、優良企業だから規律に厳しいのです。経営陣が従業員を教育するのは将来の経営陣が育ってほしいと願ってのことなので、シンガポールでも現地スタッフの教育において、反応を見ながら小分けにして少しずつでも伝えるようにしています。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERA‐ 今後のサンマルク東南アジアの事業展開についてはどのようにお考えですか?

サンマルク・シンガポールを東南アジアの本部と位置付け、東南アジアのショーケースとして同じ店舗を横展開するというより各国・各店舗に合わせて1店舗ずつ異なる店舗展開をしたいと考えています。各店舗の責任者はシンガポールでトレーニングして各国の運営を任せられるように育てていきます。

もちろん将来的に事業を大きくしたいという希望はあります。東南アジアでのシェアを上げていきたいですね。既に東南アジアの多くの都市から誘致されていて、ジャカルタは5-6件、バンコク5件、KL10件等お待ちいただいている状況ですが、マニラには今年中か来年初めに開店予定です。ほとんどの店舗はマスターライセンスを付与して運営しますが、マレーシアのKL、JBについては直営にするか検討中です。現在シンガポール主導でパートナーの選定をしているので、自分自身今後の展開が楽しみです。

今年サンマルクの経常利益は70億円を超え、日本の外食産業の中でも高い収益率を誇る高収益企業なので、財力的には海外でのレストラン展開・投資にも全く問題ないけれど、それをやれる人材がいるのかということが重要です。何事も人が大事、そこが無ければやる魅力がないことです。個人的にも、店舗数に意味は無いと思っています。結果としての利益と一緒で、結果としての店舗数です。たとえば1号店をOPENして予想以上のお客様に来ていただき席が足りない、だから2号店を出す、それでも足りないから3号店という流れが妥当です。そのうち益々ポピュラーになって、自分の街にも1店舗欲しいと言われるようになり、結果として振り向いたら100店舗になっていたというような店舗展開が理想です。

‐シンガポール国内での事業展開はどのように計画されていますか?

東南アジア1号店を出したVIVO Cityは、セントーサ島への玄関口でシンガポールNO.1の集客力があり外国人観光客も多いため、将来的な海外戦略を考えて選定しました。2号店はマリーナスクエアにあります。今年9月に3号店をオーチャードに出店する計画がありましたが家主側の都合で流れました。シンガポールでもさらなる需要があるため、現在オーチャードエリアで幾つかの商業施設と調整中です。また、今後はグループ傘下の鎌倉パスタとコラボしてパスタの提供を始める予定もあります。サンマルクと鎌倉パスタを融合した新たなスタイルの店をイーストコーストあたりに出す構想も検討しています。

‐ 現地スタッフの教育などで苦労されることはありますか?

現在1号店と2号店の店長はフィリピン人とシンガポール人です。5-6か国出身のスタッフが勤務しているので異文化・異人種のスタッフとの事業は時に大変でもありますが、東南アジアで事業を行う上では避けて通れない部分です。チョコクロも8割のスタッフは焼くことが出来ますし、よくやってくれていると評価しています。日本と違って宗教上の事情について考慮すべきことはあります。顕著なのはイスラム教徒ですね。豚肉の入っている商品は扱うことが出来ないので要注意です。

‐ 商品展開について、どんな工夫をしていますか?

カフェとしては常にスターバックスややコーヒービーンなどに競争意識を持っていますが、サンマルクはチョコクロや和スウィーツ、抹茶ラテなど、他店にないオリジナル商品が強みです。また、日本をイメージした分かりやすいネーミングもシンガポール独自に採用しています。さらに最近ではイスラム教徒のお客様にも安心して食べてもらえるよう、メーカーとチキンハムを共同開発し、既に実験販売を開始しています。

‐ 今後もシンガポールを東南アジアのハブと位置付けて活動されますか?

実は、将来的にはマレーシアを本拠地にしたいと考えています。特に首都のクアラルンプール(KL)に高い将来性を感じています。東南アジアでの様々なオペレーション機能は国をまたいで展開していくことが可能なので、必ずしも本部がシンガポールである必要は無いと思っています。既にサプライ品の工場はフィリピンにありますし、ファイナンスの機能やトレーニングについては英語が通じるシンガポールで運営するなど、ASEAN全域の個性を見て機能を分散させていきたいですね。

‐ 将来の夢や老後について、どんな希望をお持ちですか?

国土も広く、成長の伸び代の大きいマレーシアには以前から興味を持っています。子供の将来のことを考えると、他の国の文化も見せてあげたいと思っています。

また、老後はマレーシアで農園付きのレストランを運営したいですね。自給自足の採れたて野菜など、食材にこだわって究極の理想を追求したいです。やはりレストランは自分の原点ですし、その先に社会貢献などの夢も広がっています。社会貢献のために外食業に従事していると常にボリューム的に成長することを求められます。事業規模の拡大=成長という考え方から、老後は自分の理想を追求して達成したらそれを維持し、その中で成熟していくことを楽しむような生活を送りたいです。

‐ アジアでグローバルリーダーとして活躍し、老後の夢もマレーシアでということですが、アジアの魅力は何だとお考えですか?

アジアにいるということはある意味甘えかもしれません。でも、アジアの居心地の良さに甘えることは悪いことではないと思います。アジアには日本人だというだけで無条件にリスペクトされる土俵があります。ここで勝負できることは本当に有難いことで、今の日本人に対する評価は日本人の祖先が頑張って築いてきた結晶だという感謝の念を忘れずに、この環境で一生暮らせれば幸せだと思います。正直な話、欧米に行くと疲れます(笑)国際人としてグローバルに活躍しているから欧米もアジアも無く対等に渡り歩けるという方も多数いらっしゃいますが、どんなに背伸びして頑張ってもアジア人はアジア人で人種が違いますから合わない部分もありますし、下に見られてしまう感覚も払拭できないものです。

miyake3‐ これから海外に挑戦しグローバルに活躍したいと考えている方々にアドバイスをお願いします。

「グローバルな人間に必要なことは何か?」と聞いた時に、真っ先に英語が必要だと思う人は向いていないですね。むしろグローバルに活躍する人間からは一番遠い人だと思います。実のところ、日本でマーケットバリューのある人が、そのまま海外でも通用する人です。重要なのはインターパーソナルスキル、つまり、対人関係のコミュニケーション能力で、特別な能力ではなく人の言うことを察する・感じる・置換できる能力のこと。たとえば、上司に「あれ持ってきて、あれ」と言われてドンピシャで持っていける人。人の立場に立って物事を感じられる能力は、お客様の立場に立って考え戦略を立てるのに不可欠です。ましてや、国の違う人同士でのコミュニケーションでは、相手に応じてや状況に応じて、自分のとるべき言動を判断できる能力が重要で、国籍の違う者同士では日本人同士以上にその能力が必要になります。

日本で通用しない人間が、海外に出て環境が変わったら自分の評価が変わる・上がると期待するのは間違いです。日本で認められない人間が海外で認められるケースは経験から極めて稀です。日本人は島国の自然の要塞で守られた単一民族で日本人同士のインターパーソナル能力しか必要ない土壌で過ごしてきたので海外で弱いのは仕方がないかもしれませんが、グローバルに活躍したいなら、まずは日本で通用する人間にならないと世界で相手にされないということを肝に銘じ、日本でインターパーソナル能力を磨くことから始めるべきだと思います。コミュニケーション能力が高い人間は組織の中で重宝され必ず出世します。結局海外で評価されている人間は日本でも評価されるし、世界中どこでもやっていける人間なのです。まずは目の前のことをしっかり身に着けることから始めてみてください。さらに日本のことを聞かれても困らない程度に日本のことも勉強しておくと将来役に立つと思います。海外で活躍する日本人が増えることを心から歓迎し応援しています。

(取材・文:佐竹伸子)