武田さん(後編)「自分はリアルのび太君のような子どもでしたが、感性で勝負を出来る場所を見つけました」

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前編はこちら。

‐昨年はインドネシアのバリ島でウェディングのお仕事をされたとか?

芸能人のウェディング会場に施した装花が好評を博しました。現地ではテレビや雑誌・新聞でも大きく報道されて話題になり、この仕事をして確実に評価が上がったと感じていますので、今後の仕事にもつなげ、ウェディング事業を成功させていきたいと思っています。

takeda6‐また、写真集を出される予定もあるそうですね?

今年の秋に世界各国のフラワーアーティストと一緒に作品をまとめた写真集が出版される予定です。この写真集では「D+IKEBANA」というタイトルで新しい花の見せ方に挑戦しています。タイトルの意味はDAN TAKEDAが新しい花の見せ方を創造するということ。綺麗な花束やディスプレイがつくれるということに留まらず、誰が見ても自分が作った作品だとわかるようにブランディングしていくつもりです。

‐アーティストとしてのセンスはどうすれば磨くことができますか?

元々持っているセンスや才能もあるかもしれないけれど、それよりも必要なことは情熱、信念、誰よりも努力することだと思います。スポーツ選手は身体能力で可能性がなければ始めから無理だけれど、デザインはいくらでも学べるし、センスも努力や志の深さ次第でいくらでも磨けるものです。自分自身シンガポールに来て飛躍的に伸びたと感じています。意識してアンテナを張り様々なジャンルの本やアーティストからの刺激を受けてきたことで自然に養われたと感じています。人から「センスが良くてイイね」と褒められると少し違和感がありますね。何もしないで得た能力なわけではなく、努力して培った感性ですので(笑)。

また、人に飽きられない良い仕事ができるよう常に危機感を持って努力を重ね、注文してくれた人の期待以上の花を提供できるようオーダーメード制作しています。お客様には希望するイメージだけお伺いし、花のデザインなどは全て任せてもらっていますが、打ち合わせの段階で相手の服装や装飾品、話し方や歩き方など雰囲気全般を観察して好みを見極めると同時に、人種による好みなども考慮しています。先日のウェディングで好評を得た「プラナカン・カラー」はシンガポールならではの文化からイメージしたもので、オリジナルのアレンジを創造することに意義を感じています。

takeda5‐英語の習得については、どのように考えていますか?

今でも英語はそんなに話せないし、さほど上達したとはいえず、仕事の英語は出来ますが流暢な英語は話せません。言葉が不自由なだけに、人を見る目、何を求めているかを察する観察力や感性が鋭くなりました。最初は英語を勉強し習得しようと意識していたのですが、ある日を境に英語を覚えることは無理だから諦めようと考え方を変えました。英語は必要最低限にしその分を察する力と作品で勝負しようと考えているので、会った瞬間の印象や声を聞いた瞬間に相手の方のイメージが湧くようになりました。

‐仕事における英語の重要性についてどう考えていますか?

これはあくまで自分の場合ですがアーティストとして活動する上で英語力はそんなに重要ではないと思います。勿論英語が話せるのと話せないのと、どちらが有利かと言えば100%話せるほうに決まっています。ただ、大切なのは英語でのコミュニケーションではありません。言葉の問題を越え、相手が求める以上の作品が出来れば良いと思います。最低限ビジネスで必要なことを聞き取る英語力があれば、高い英語力が無くても技術力が高い人の方が評価されます。饒舌に説明や言い訳するよりも、良い作品そのものが自分を代弁してくれ評価されると感じています。

‐振り返ってみて、20代は自分の人生でどんな時代でしたか?

28歳でシンガポールに来てゼロからスタートした当時、友人は結婚して子供もいて安定している人が多かったのに、自分は全く安定しているときが無かったですね。花屋で働きながらも、ずっと生活は苦しかったし、月額54,000円のアパートで同棲していて…20代前半ならわかるけど後半になってもその状況で(笑)結婚なんて全く無理…その先どうするのか自問自答しているような感じでした。シンガポールに来て30歳になるまでも必死な生活が続き、安定からは程遠い時代でした。

‐30代になって変化を感じますか?

全てにおいて強い責任感を感じています。常に自分が責任を持つ、人のせいにしない、どんな不可抗力の苦境でも仕方がない、自分の責任だと。「シンガポールは○○だから」とか「シンガポール人は△△だから」とか、文句を言っても仕方ないことですよね。人種の違い、価値観や文化の違いから文句や愚痴を言う人も多いけれど、適材適所の役割を与えて仕事をさせ責任を持たせることが大事です。そして最終的には自分が責任を持つことが肝心だと思います。実は自分も初めはそう思えず人のせいにばかりしていました。注文と違う花が届いたり、注文した花が無かったり、何かある度に怒っていましたが、今となってはそれも「仕方がない」と思えるようになりました。要は全て自分の責任なのです。信用できない人間に頼んだのがいけない、その人が悪いのではなく、その人を見抜けなかった自分が悪いのです。全部自分で責任を取る覚悟でいるから、余計に警戒心は強くなりましたよ。色々な人を見て人を見る目は研ぎ澄まされてきたと自負しています。

‐人生のターニングポイントは何だったと感じていますか?

最初の飲食業の仕事をリストラされた時が自分の人生の分かれ目でしたね。よっぽど嫌なことがあるか、本気で他にやりたいことができなければ自ら辞めることはなかったと思うので、解雇にならなければ転機は無かったかもしれないです。「本当は○○の仕事がしたいけど△△だから□□…」と出来ないことの言い訳するのは簡単です。自分もリストラされなければそれなりに平凡に生活していたと思います。人は逆境に立たされないと本気になれないのかもしれません。私の場合、泳げないのに海に蹴落とされたかのように追い詰められ、沈まないよう必死でもがいて自分の道を探した結果、シンガポールで現在のスタイルにたどり着いたようなものです。

‐老後や将来に目標としていることやイメージしていることはありますか?

老後についてのイメージは無いですね。花の仕事はずっとしていたいと思っていますが、今はシンガポールでの生活以外考えていないです。逃げ道があることは良くないと思っていて、5年後10年後に日本に帰るとか計画をもっていると、そこをゴールにしてしまうので、可能性に制限は設けないことにしています。先のことは考えず今の自分のビジネスの幹を太くしていくことを目標に、全ての仕事に細心の注意をはらい、情熱をもって仕事をし、常に新しい作品を創造して自分の幅を広げることを心がけています。日本の花屋さんだって大抵月給15~20万円ほどで、その先普通に頑張ったって30万円位が限界ですよね。でも花で稼いではいけないわけでもないし、一方で華道家・假屋崎さんのように豪邸に住むような暮らしが出来る人もいる。どうせやるならその位のレベル・頂点を目指したいです。世界で戦うにはまだ足りない部分だらけです。

‐人生をかけてシンガポールでの起業に挑戦して良かったですか?

勿論です。シンガポールで仕事をする方が断然楽しいですね。それも日本のように逃げ道のない環境だから頑張れた結果だと思います。日本では家族も友達もいるし、テレビも面白いし、何を食べても美味しいし、アルバイトをしてでも生活は成り立つし、仕事だけでなく楽しい逃げ道は沢山あるので、自分を甘えさせてしまいがちだと思います。

海外に出てきて誰も助けてくれる人がいない環境に身を置いたことは良い経験でした。 同情してくれる人は大勢いるけれど、その人達が花の注文を沢山くれるかと言ったら、そういう人はいなかったですから(笑)。結局、自分のことは自分でどうにかするしかない環境に追い詰められた時に自分の本領を発揮できるのですよね。そういった意味で、若いうちに厳しい環境にチャレンジすることは有意義なことです。逆境を跳ね返してこそ、新しい人生を始められるのです。

自分は本当に追い込まれ、言葉も通じず、友達もいなくて、お金も無くて、周囲の駐在員に比べて惨めだなと思った時、それを越えていこうと思ったのです。そこで自分はダメな人間だと卑屈になってしまうかどうか、最初の壁を超えられるかが人生の勝負どころですね。泣きながら乗り越えた経験をしてこそ今があるから、シンガポールで仕事を始めて本当に良かったです。

武田さん‐海外に挑戦したい人にアドバイスをお願いします。

自分は特別でもなんでもないのです。小学生のときはABC評価でオールCを何度もとるリアルのび太君みたいな子供でしたが、人生の転機に自分の人生を遡って熟考した結果、小学5年生の時、粘土で作った作品が学校の代表に選ばれたように「自分は手先が器用でものを作るのが好き」という自分の本質に気付いた事が大きかったです。今興味のあることや目先のことだけでなく、未だ気付いていない本当に好きなことが自分の中に眠っているかもしれないので、まずは自分自身のことを深く掘り下げて隠れた才能や可能性を探してみるといいと思います。本気で自分と向き合えば、自分にしかない感性で勝負出来る場所がきっとあると思います。

また、人との出会いも重要です。しかも最初のチャンスが非常に大事。出会いは一発勝負です。最初に印象の薄かった人間が次の機会にどんなに頑張っても挽回できないものです。自分がアンテナを張っていればどこにでもチャンスはありますし、アンテナを張っている人同士がぶつかって大きなチャンスを生み出します。私の場合、興味のある方にはどんなに敷居が高くても諦めず自分から積極的に御縁を繋ぐようにすることで新たなチャンスを掴んできました。

チャンスは誰にでも等しくあるものです。私にだけ特別あったわけではありません。アンテナを張っていなければ気づかずに通り過ぎてしまうものなので、常に意識して生活し、確実に貴方自身のチャンスを掴んでください。そうすれば必ず成功への扉を開くことができると思います。

(取材・文:佐竹伸子)